実施機関を訪ねて

UD研修の実施機関は全国に広がりをみせ、年々その数を増しています。それぞれの実施機関ではタクシー乗務員の"接遇向上"を命題に、専門講師の養成をはじめ、研修内容の充実化に努めています。実施機関を訪ねて、具体的な活動内容や成果などについてお聞きしました。

第2回

名鉄東部交通㈱ 加藤 水竹 取締役

交通弱者に対する乗務員の意識を変革、接遇の向上に努める

今回の「実施機関を訪ねて」は、名鉄東部交通㈱(愛知県豊田市、加藤憲治社長)です。同社は、名古屋鉄道グループの一翼を担うタクシー会社で、中型タクシー188台のほかジャンボタクシー・マイクロバスや小型・中型路線バスなどを保有、従業員は380名(うちタクシー乗務員315名)。営業範囲は、トヨタ自動車の本拠地・豊田市を中核とした西三河地方(人口160万人)で、豊田市・知立市・西尾市に営業所を展開しています。同社では、2016年9月2日~17日まで本社乗務員を対象にUD研修を11回、次いで西尾・知立営業所で各6回の研修を実施。その講義を担当された加藤水竹取締役にお話を伺いました。

取材リポート

受講中の乗務員の皆さんに、UD研修の感想を伺ってみました。「これまでは、健常者のお客様には"こちらから積極的に話しかけるな"と教わってきました」「しかし今回のUD研修では、高齢者・障がい者のお客様には"何かお手伝いできることはありますか"と積極的に話しかけていくべきだと。意識変革が求められているわけで、新鮮な研修ですね」と口を揃えました。

同社では全乗務員を対象にUD研修を修了、今後は月例の班会議などの機会を利用してワンテーマごとに研鑚を重ねていきます。「一人でも多くの乗務員が"高齢者・障がい者などの交通弱者に対する意識を高め、健常者も含めた接遇の向上を図っていきたい」と加藤取締役は抱負を語ります。愛知県下で逸早く"接遇"という表現を用いた、同社の接遇活動に期待したいものです。

簡易電動車いす

名鉄東部交通㈱UD研修風景

 

高齢者体験キットと実習風景

 

高齢者体験キットを身につける受講生の皆さん

インタビュー

――自社でUD研修を実施するに至った動機・目的などについてお聞かせください。

近年は妊婦タクシーやキッズタクシーなどの需要がありますが、当社のタクシー乗務員は経験のなさもあって新しい取り組みに臆病な面もありました。その一因は、例えば"トランクに積載できる簡易型電動車いすの存在を認識せず、従来の重量型を想定するなどして断ってきた"という会社側の認識不足もありました。しかし、利用者からの要請もあって確認してみると、トランクに積載可能な簡易型電動車いすのあることが確認できました。

そうした一事を含めて、根底に"乗務員の交通弱者に対する認識が不足している"こと。その精神が"一部乗務員による接遇の悪さにつながっている"と実感。それら諸点から、「交通弱者に対する共感を通して、健常者も含めた接遇の向上を図りたい」というのが、当社のUD研修推進の目的です。

――UD研修を実施するにあたって、新たに講じられた施策などがありますか。

これまで、少なからず高齢者に対する思いやりが希薄な乗務員が在籍していると感じていました。そこで数年前から高齢者体験キットを体験させようと企図していました。今回この企画がかない、受講者全員に高齢者体験を実施、それにより乗務員意識に変化があったように感じています。それと、簡易型電動車いすの乗降車体験にあたって、電動車いすメーカーに当社の現況を説明。その際、乗務員が知識や経験不足から車いすを断ったり逃げていることなどを忌憚なく話し、現車を貸していただき、メーカーを巻き込んで教宣活動を行ったこと。

さらに、妊婦さんから「出産時の移動手段として、陣痛時にはタクシーで送ってほしい」との要請を受け、産婦人科の看護師さんのアドバイスなども経て"妊婦さん特急"を打ち出しました。結果は、好評で8か月間で30人以上からの登録を得ました。今回のUD研修を企画と合わせ、役員会でのコンセンサスを取りつけました。

――UD研修実施に対する乗務員への受講の呼びかけは、どのようにされましたか。また、UD研修実施後の乗務員意識に変化などはありましたか。

受講者の"三つの負担(受講費、昼食費、日当)"については予算化し、会社が全額負担(それなりのコスト負担となりました)、乗務員が受講しやすいように努めました。そんな経緯もあって、当社はUD研修の真意を説明することなく、半強制的な研修としてスタートさせました。この反強要研修が、後に「研修時間が長すぎる」といったアンケート結果に結びついたのでは? と反省しています。自らの意思で進んで受講していれば、こういた結果にはならなかったと思います。

意識の高い乗務員とそうでない乗務員に二極化されたと感じます。ただ、総じて、全乗務員の高齢者や障がい者、妊婦さんなどに対するまなざしが変わったように感じています。それらは高齢者体験キットの活用や講習内容の実施効果があったと思います。

――「今後の乗務員研修やUDタクシーの導入、地域密着型のタクシー経営」などに関してご意見があればお聞かせください。

UD研修に関しては、今後は新入社員の研修に組み入れようと考えています。また、現役の乗務員の研修に関しては、月例の班会議や全体会議などを利用して研鑚があるので、その時間を利用してUD研修をワンテーマごとに復習するなどして修得させていきたいと思います。
また、高齢化しているのはお客様だけでなく、乗務員も同じです。研修中は、30㎏近い簡易型電動車いすを持ち上げられない高齢や女性乗務員さんも多くいました。無理を強いれば、高い確率でケガの心配もあります。それと、実際に一部の簡易型電動車いすはトランクに積載できませんでした。この点も課題でしょうね。今後は車いすメーカーとタクシー協会などが協力して、軽くてコンパクトな車いすができればと願います。そして何よりも、トヨタ自動車のUDタクシ-(ジャパンタクシー)の登場に期待しています。

――貴社の場合は、名鉄グループとして先陣を切られたわけですが、グループとしての動きはいかがでしょう?

当然、当社のUD研修事例はグループ内で注目されると思います。名鉄グループ会報誌ですでに今回のUD研修成果について発信しており、興味を示しているグループ会社もあると聞き及んでいます。理想は、UD研修の精神がグループ内の研修基盤となり県下に浸透した段階で、おこがましいのですが「高齢者・障がい者にやさしい名鉄グループ」と宣言できればと考えております。他社とサービス面などで差別化が可能となる。"UD研修はそれだけの魅力を有した、今後のタクシー業界には欠かせない施策"だと言えると感じています。